税理士は誰の方を向いていますか?
これは、過去に相続の申告を受任させていただいた際に、相続人のお一人から発せられた言葉です。
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その時は、相続人が子供お二人の姉妹でした。
この相続人の方々は、余り姉妹の仲が良いとは言えず、生前からお母様の財産と介護を巡り、意見が対立していました。
亡くなられたお母様は、いわゆる良家の子女が通うような学校に通われていたご実家の出身で、ご自身がご両親から相続したいくつかの不動産と、金融財産で、金額に引き直すとかなりの金額になりました。
対立も多少のケンカくらいであれば、子供の頃の兄弟げんかの延長ですが、事がかなりの額の財産が絡んでくると、兄弟げんか・・では済まない状態になり、それぞれの旦那様を巻き込んでの対立となり、最後は双方が弁護士の先生を立てて、代理人どおしが話をするという状況にまでなっていました。
お母様は、長女ご夫妻と一緒に暮らしており、長く認知症になっていたお母様を看取ったのは、長女ご夫妻でした。
認知症ではありましたが、意識がはっきりとしていることもあり、そういう時には、演奏会や絵画展などに行きたい、昔ご主人とデートで食べたレストランでお食事がしたいなどということもあったようです。
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お母様が保有されていた財産の評価が終わった頃、長女の方からお電話があり、代理人の弁護士の先生を交え、お話をしたいとのこと。
その席で差し出されたのが、立替金というかなり分厚い資料と、モコモコ膨らんだ紙袋でした。
紙袋には何が入っているのだろう???と思いつつ、お話を伺っていると、資料は長女の方がお母様の外遊社交費を立替えたものの金額のサマリであり、モコモコの紙袋はそのエビデンスとなるものであるとのことでした。
これを、亡くなったお母様の長女の方に対する債務として扱って欲しいと言うお話でした。
(相続税は、プラスの財産から債務や葬儀代などのマイナスの財産を引いた正味財産・純財産に対してかかりますので、債務額が大きくなれば、税金は当然小さくなります)
資料をめくると、10年以上前の日付から始まり、内容は医療費や固定資産税などの公租公課もありましたが、中には食事代、その他音楽会や絵画展チケットで、金額は付き添い分を入れた2名や3名分となっているものも多額ありました。
税理士によって、いろいろな解釈があるのかもしれません。
が、私には、レシートや請求書から誰かが支出したことは分かるものの、本当にお母様が行ったのか、それを長女の方が支払ったのかまでは、証憑類から追いかけることができないこともあり、また感覚的にも出された金額全部を債務とすることは難しいのではないか・・と感じました。
そのため、
「食事や趣味に関するものは、家族であれば負担してあげる等事はあり得ることなので、相続税の債務として計上してよいものかどうかは、よく検討をしてからの方がよろしいです。
また仮に確かに立て替えていたとしても、食事代やチケット代の付き添い分まで全部を計上するということは、介護の範疇とは言いづらいです。介護をしていなくても、食事はとる訳ですから。現金で支払っている点は、長女の方が本当に支出したということを、仮に税務調査になった時に証明しろと言われたときに、証明が難しいこともあり、記載金額全部を債務とすることは難しい気がします。
税務調査になれば、ダメですと否認される可能性も高いように思いますし、もしかしたら妹さんからは、本当にお姉さまの手持ち資金から出しのか?というようなことも出てきて、収まらなくなってしまうかもしれません。」
とお答えをしました。
その時に、怒りを含んだ声で、妹が何もしないから、自分を犠牲にして、自分のお金で親の介護をしたのに、それが認められないとはおかしい、私の知らないところで、妹から何か言われてるんじゃないの!!と、タイトルにある投げかけがされました。
中立です!
そのお尋ねに関する回答は、「全ての方向を向いています」、法律的に言えば「独立したの所に立っています」になります。
その方の発言には、続きがあって、あなたは税務署が・・というようなことを言い、依頼人の利益を考えておらず、税務署寄りのことばかり言って、いい税理士ではないという内容もありました。
この件だけを切り取れば、そういう見方もあるのかもしれませんし、私の説明の仕方が悪かった所もあったと思います。
ですが、税理士は税理士法第1条という税理士の使命が規定されている条文で、「独立した公正な立場で」「納税義務者の信頼にこたえ」「納税義務の適正な実現を図ること」を義務付けられています。
だから、税理士には利益相反行為の規定が課せられていません。
この件で言えば、債務OK、ドンドン何でもマイナスしちゃいましょう~!と言った方が、その時はその方の信頼にこたえることができるのかもしれません。
ですが、税務当局から認めれないと言われる可能性があることをお伝えすることも、長期的にはその方の信頼にこたえることだと考えています。知っていながら、リスクを伝えないことは、信頼にあたる行動ではありません。
私は、最終的にはその当事者の方がどうするのか・・を決めるべきだと考えています。税理士が言ったから、よく分からないけれど、そうした・・ではダメなのです。
だって、ご自分のことですから。
そのために税理士は、法律的にダメなものはダメ、微妙な点については、税務の扱いとして、過去の判例や自分の経験値から、こういう指摘をされるかもしれない、その可能性はどれくらいだと考える・・ということをお伝えし、判断材料を渡す役割だと考えています。その中では、私がその方の立場であれば、どうするかも併せて伝えるようにしています。